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BANDシリーズ10周年
2025年でデビューから10年を迎えた「Band」シリーズをご紹介します。このシリーズは、janukaが初めて本格的に天然石を扱ったシリーズで、今ではブランドの代表作の一つとなっています。この記事では昔を思い出し、その誕生の背景やデザインプロセスについてお話ししたいと思います。
誕生のきっかけ
天然石との出会い
2012年、陶磁器ジュエリーでデビューしたjanukaは、貴金属を少し扱う程度で天然石は使用していませんでした。
しかし、コレクションの幅を広げたいという思いから、ジュエリーで一般的に使われる天然石に興味を持ち始めました。
ただし、ブランドのコンセプトである「お手本から少しズレた」デザインに合う斬新なアプローチが見つからず、技術的な知識も十分ではなかったため、なかなか実現できずにいました。
詫間宝石彫刻との出会い
今でも鮮明に思い出す、極寒の2014年2月。ニューヨーク・チェルシーで開催された、日本人ジュエリーデザイナー限定の展示会に、janukaとして初めて海外出展しました。そこで出会ったのが、作家として参加していた詫間宝石彫刻の詫間康二さん。
帰国後すぐに詫間さんの工房がある甲府を訪れ、目の当たりにしたのは、僕の天然石に対する固定概念を覆す圧倒的な加工技術。その経験が、「Band」シリーズ誕生の大きなきっかけとなりました。
デザインの特徴
新しい石の留め方への挑戦
janukaが天然石を使ったデザインに挑むとき、最初に考えたのは「従来の型に頼らない、新しい表現ができないか?」ということでした。通常、天然石を使ったジュエリーは、金属の枠や爪で石を留めるのが一般的。しかし、それでは石が主役になりすぎて、留め方そのものにデザイン性を持たせるのが難しいと感じていました。
そこでヒントになったのが、木工技術で使われる「溝」の考え方。学生時代にプロダクトデザインを専攻していた際、木工技術を用いた家具デザインに取り組んだ経験から、石に溝を掘り、そこに金属を嵌め込むという新しい留め方を思いつきました。
このアイデアを形にするため、再び詫間さんの元を訪れ、正確な溝加工を依頼。溝の位置や形状を詫間さんとともに試行錯誤しながらブラッシュアップし、職人技による緻密な作業を経て、独自の留め方がついに実現しました。
天然石の個性を活かす
天然石にはそれぞれ独自の性質があり、加工の難易度も大きく異なります。例えば、特定の方向に力が加わると割れやすかったり、内部にひびや内包物を含んでいたりすることも。そうした特性を見極めながら、慎重に加工を施すことが求められます。だからこそ、職人の経験と技術が不可欠なのです。
一般的に、天然石に溝を掘るという手法は、石の価値を損なうリスクや、美しさを隠してしまう可能性があるため、ジュエリーの世界では敬遠されがちです。でも、janukaではこの考え方を逆転させました。溝を「制約」ではなく「デザイン」として活かし、従来の天然石ジュエリーとはまったく異なる、新しいアプローチを生み出したのです。「Band」シリーズは、余計な装飾を削ぎ落とし、構造そのものを美しさへと昇華させた、まさにjanukaらしいジュエリーだと思っています。
デザインの変遷
技術とアイデアを融合させて誕生したBANDシリーズは、2025年でちょうど10周年を迎えます。最初から今のデザインにたどり着いたわけではなく、
このデザインを生み出してからも試行錯誤を重ねながら今に至ります。
デザインの変遷(ライン)
一番最初は、写真の通り石のテーブル面(石の正面の表面部分)に一本の筋が入ったようにカットを入れていました。さらに石の上にカーブを描いた曲線での製作も試作。アームは、プロダクトのアプローチを意識した、石に沿ってまっすぐなラインをそのまま延長したような形状でした。
デザインの変遷(石)
石の種類も少なく、最初のリリース時は、クォーツ、スモーキークォーツ、アクアマリンの3種類。全てオクタングルカットを使っています。
イベントを重ねるごとに徐々にお客さまが買ってくれるようになり、それに伴って石のバリエーションも広がって行きました。SNSでの発信が中心でしたが、『これの留め方が見たくてイベントに来ました』と言っていただくことが増えて、SNSの影響を感じるようになったのもBANDのデザインからだったと思います。
石を取り扱うようになってから専門的な知識も増え、それに伴い見る目も養われてきたように感じます。
今では主な誕生石をはじめ、バイカラートルマリン、パライバトルマリンやインクルージョンの入った石などめずらしいものも取り扱うように。
その中でもより綺麗な石、個性の際立った石、何か惹かれるものがあると感じる石を選んで加工しています。
デザインの変遷(加工)
デザインの変遷は石だけではありません。アームの形状や石への工夫も変わりました。
先述の通り、最初のアームは直線で、BANDの特徴であるラインをアームもそのまま残すことを強く意識していました。しかし徐々に、プロダクトデザインとしてのアプローチだけではなく、ジュエリーとして美しく見せたいという思いが加わるように。そこでまず、アームにカーブを持たせることにしました。そうすることで形状に優美さが宿って石をよりエレガントに見せられるようになりました。さらに指への当たりも優しくなり、つけ心地も向上。ジュエリーとしての佇まいについてより考えるようになったと思います。
さらに、これまでは石の高さがあるものは石の底辺をカットして収まりをよくする加工を施していましたが、カットを変えると輝きが損なわれるケースがあり、廃止することに。高さのある石を座りがよく収めるためにどうするか考えた結果、石のカットや形状によって何パターンか考案しました。ダイヤモンドのように先端が尖ったカットの場合は、アームに穴を開けて石のキューレット(石の先端の尖りの部分)が出る仕様に。真っ直ぐな底辺の石にはアーム部分に溝を。さらに、写真のようなV字のカットにはアーム部分に切れ込みを入れて、それぞれ石がグラグラしないように収めています。
アイテムの拡大
BANDのデザインそのものへの工夫だけではなく、周辺のデザインも進化しました。
BANDシリーズは天然石がゆえに一点ものが多く、『反対側のピアスのおすすめありますか?』や、『このネックレスをした時のピアスは何がいいですか?』など、身につける際のコーディネートとしてのお悩み相談をお受けすることがありました。個性の強い石と石コーディネートするのも面白いのですが、引き算の組み合わせも考えたいと思い、「BESIDE」というその名の通り、寄り添うことに特化したデザインのシリーズをリリースしました。
Bandの菱形のデザインの際の石の上のラインで使用しているゴールドと同じ太さと形状のバーでピアスとネックレスに。主役をより引き立てるようなシンプルなアイテムです。
また、リングとぴったり重ねてつけられるように、同じ厚みと幅にこだわったハーフエタニティリングも作りました。
ダイヤモンドがぎりぎりセッティングできる限界の厚みで作っているためフィット感があり、着けているときの窮屈さをあまり感じずに着けられると思います。Bandとの重ね着けに関係なく、単体でも人気のアイテムとなりました。
10年を迎えて
技術とアイデアを融合させて誕生した「Band」シリーズは、2025年でちょうど10周年を迎えます。このデザインを生み出してから、さまざまなトライアンドエラーをしながら今の形になりましたが、これからもアップデートは続きます。
一例ですが、石のカットそのものを原石からオリジナルで作り、Bandをさらに構築的なイメージに昇華させれたらなどと考えています。
今後も進化させていきたいと思っていますので、これから10年20年と飽きることなくご愛用いただける存在になれたら嬉しいです。