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POSITIONシリーズ誕生
次はダイヤモンド
BANDの誕生により色石の面白いセッティングをデザインできたのではないかという思いから、次なる挑戦としてダイヤモンドのデザインに取り組むことにしました。
みなさんもご存知の通り、ダイヤモンドは非常に硬く、BANDのデザインで不可欠な「溝を掘る」工程を施すのが難しいため別の方法を考えなければなりません。そこで、ダイヤモンドを活かした新しいデザインの可能性を模索することにしました。

ダイヤモンドセッティングのお手本とは
「お手本から少しずれた」というブランドコンセプトを掲げている以上、まずはお手本とはいかなるものかをリサーチする必要があります。そこでダイヤモンドの一般的な留め方について調べたところ、細かく分類すると様々な方法がありましたが、大きく分けて「爪留め」「枠留め」、そして「テンションセット」という3つの技法があることがわかりました。

新たな留め方とは
「テンションセット」とは、地金の張力を利用してダイヤモンドを固定する技法で、左右の金属の間にダイヤモンドを浮かせるようにセットする方法です。この技術を用いた代表的な作品には、NIESSINGのリングがあります。
爪留め、枠留め、張力を利用するテンションセット、もしくはまったく新しい方法か——様々な可能性を試行錯誤した末に誕生したのが、「POSITION」でした。
「POSITION」は、枠の内部に溝を設け、そこにダイヤモンドをセッティングすることで、枠とダイヤモンドの間に隙間を作り、浮遊感を演出したデザインです。この技法は、枠留めとテンションセットの融合ともいえるものでした。

創作の壁
理屈は通っていても、理想を形にするのは簡単ではありませんでした。
まず、ダイヤモンドはぱっと見綺麗に整った形に思えても、人の手で加工している以上、厳密な正三角形や正方形ではないことがほとんどです。石が歪んでいると枠も歪んでしまい、出来上がりの美しさに欠けてしまうのです。
そこでなるべく正確な比率でカットされたダイヤモンドを探す必要が出てくるのですが、そこがまず高いハードルとなります。
そして、綺麗に整った石を見つけたとしても職人さんの正確なセッティング技術がなければそれはそれで歪みが生じます。
つまり、石自体のプロポーションの美しさと、それに合わせて作る枠の正確さが合わさってやっと目指すデザインが完成するということになります。


デザインのディテール
プリンセスカットは、正方形の枠に対してダイヤを45度回転させ、枠の正方形の対角線に合わせて配置することで、四隅に三角形の隙間を作り、独特の軽やかさを演出しています。
また、トリリアントカットには円枠を合わせ、マーキスカットには長方形の枠を設けた上で、リングに仕立てる際にダイヤモンドの枠を15度傾けて指にフィットするよう工夫を施しました。こうした細部にわたるデザインの工夫が、「POSITION」の独自性を支えています。

ダイヤモンドカットの市場
三角形(トリリアントカット)や正方形(プリンセスカット)のダイヤモンドが市場の中でどれくらいのシェアがあるかご存知ですか?
まず、市場全体の約70~80%も占めているのがラウンドブリリアントカットと呼ばれる円形のダイヤモンドです。58面のカットは、光の反射と屈折を最大化した設計で、最も輝くダイヤモンドカットとされています。
一般的にダイヤモンド=キラキラと輝くというイメージに繋がるのは、このカットが最もポピュラーだからです。婚約指輪やジュエリー市場で高い需要があり、他のカット(プリンセスカット、エメラルドカットなど)と比べて価値評価の基準が確立されているため多くの場面で採用されているため、流通数も一番多くなります。
そして、先ほどの質問の答えに戻りますが、「POSITION」で採用している、その他のカットの市場シェアは以下の通りです。
- プリンセスカット:約10~15%
- オーバルカット、ペアシェイプ、マーキスカットなど:5~10%
- エメラルドカット:5~7%
プリンセスカットと呼ばれる正方形のダイヤは、市場の中でも約10~15%しかありません。その中から極力歪みの少ない整ったカットを探すとなるとさらにパーセンテージは下がりますので、石探しは難航します。綺麗なものがあれば即買いしないとなかなか商品が揃いません。予算内であればラッキーなのですが、ダイヤモンドの価格も高騰しており、難しさに拍車がかかっているのが現状です。
それならばラウンドブリリアントカットを使えばいいのではという声があるかと思いますが、個人的に主流でないものの方が好きなのです。そんな性格もあり、マーキスカットやペアシェイプ、プリンセスカット(四角)、トリリアントカット(三角)などを用いています。
しかしデザインとしてもいいことも。四角や三角などの石のカットの方が、より大きな隙間が作れて浮遊感を最大限に引き出すことができるのです。枠の形状との相性を考慮しても、変わったカットの方が面白い仕上がりになります。

これからの記念のリングの役割
「POSITION」は特にこれという用途を設けていませんが、ファッションリングかエンゲージリングとして選んでいただくことが多いです。
フォーマルすぎず、煌びやかすぎないデザインで、普段使いできるというお声もいただきました。ミニマムでジェンダーフリーなのも時代に合っているのかもしれません。
エンゲージリングの新たな定義
エンゲージリングは、長らく婚約の証としての象徴的な役割を果たしてきましたが、時代とともにその存在価値も多様化していると言われています。
例えば、ダイヤモンドだけでなく、サファイアやエメラルドなど、自分の好みの石であったり誕生石であるカラーストーンを選ぶ人も。もちろんエンゲージリングだからと言ってダイヤモンドにこだわらなくてもいいので、自由な選択肢があります。ただ、石としても強度の問題はありますので、あまり強くない石を使いたい場合は日常使いよりも特別な日に着用する使い方をおすすめします。
また、婚約の証としてのリングを誰かにもらうものという考えではなく、「人生の節目を祝うリング」として自分自身で購入する人も増えています。結婚という形だけでなく、転職や出産など人生の特別なイベントの折に、形に残す目的でリングを探されていて、選んでいただくことも。
両者ともに、「特別な日のためのリング」ではなく、毎日身につけられるシンプルでモダンなデザインをお探しの方が多い印象です。一生の思い出として箱の中に取っておく特別なリングよりも、日常生活で一緒に過ごせるリングが求められるのだと思います。
用途に定義はありませんので自由な発想で選んでいただけたら嬉しいです。

さらなる発展
多様な選択肢が増える中で、「POSITION」をダイヤモンドだけのデザインにすることもないだろう、色石で作ってもいいのではないかと、徐々に色石のバリエーションを広げていきました。
先日の新宿伊勢丹でのPOP UPでは、「POSITION」の色石をメインビジュアルにして展開しました。「BAND」では難しかった小さめサイズの石も制作が可能なため、小さめの石がお好みという方にもぜひご覧いただきたいです。

